世界保健機関(WHO)の調査によれば、世界の 14 億人以上の成人が運動不足であり、性別ごとにみると男性は 4 人に 1 人、女性は 3 人に 1 人の割合で運動が足りていないことがわかっています。
さらに日本人だけに注目をすると 3 人に 1 人が運動不足である状況がわかりました。
この深刻化する運動不足を改善するため世界保健機関(WHO)は、2025 年までに、運動不足の割合を 10 %下げるという目標を掲げています。
◎現代人が運動不足な理由‥
現代人の 3 人に 1 人が運動不足と言われる理由はいくつかあります。
○労働環境の変化
新たな働き方として「在宅ワーク」という、自宅に居ながら仕事をするスタイルが増えて
います。そうすることで自宅から会社に行く通勤中の運動が無くなってしまいますし、デ
スクワークが多くなるため現代人の運動不足をより加速させます。
○移動手段の変化
公共交通機関や自転車の発展から歩行量が減り、エレベーターやエスカレーターの普及
により階段の使用頻度も減少してしまっています。近年ではアパートやマンションでもエ
レベーター付きの物件が多いため、全く階段を利用していないという方もいらっしゃるの
ではないでしょうか?
○気候や季節の影響
日本には四季があり、台風や梅雨など気候や季節の影響が生活に大きく関係してきま
す。さらに最近までは記録的な猛暑が続き、少し動くだけでも汗をかいてしまう状況でし
た。その中で運動に対するモチベーションを上げることが難しかったというお声もありま
す。
◎運動不足の悪影響とは?
「運動不足のままでいると、体に良くない影響があるのかな?」
「運動不足を解消するにはどんなことから始めたら良いんだろう?」
体を動かせない日々が続いていて、運動不足が気になっているという方もいらっしゃる
でしょう。運動不足が続くと、体力や筋力が衰えたり肥満になったりするだけでなく、メ
ンタルの不調につながる可能性もあります。
また、がんを含む生活習慣病のリスクも高まってしまいます。
1.運動不足とは
現在の自分の生活スタイルで運動不足になっていないか、気になっている方もいらっしゃ
るでしょう。運動不足についての明確な基準があるわけではありませんが、厚生労働省は
「運動習慣のある者」を「 1 日 30 分以上の運動を週 2 回以上実施し、1 年以上継続して
いる者」と定義付けています。この基準を満たしていない方は運動習慣がない、つまり運
動不足の状態にあるといえるかもしれません。
また、厚生労働省は 18 ~ 64 歳に対し、生活習慣病の発症や生活機能の低下のリスク
が抑えられる「運動量の基準」を設けています。
2.運動不足のもたらす悪影響
「運動不足は体に悪いというイメージだけど、具体的にどんな影響があるのかな?」
実際に運動不足がもたらす影響について、気になる方も多いのではないでしょうか。
運動不足によって引き起こされる症状や病気について説明していきます。
-1.体力・筋力の低下
運動不足が健康にもたらす最大の影響は、体力や筋力の低下です。
体力や筋力は有酸素運動や筋肉トレーニングを行うことによって高められますが、運動不
足では体力や筋力を維持できなくなってしまいます。筋力の低下が進むと、立つ、歩くと
いった日常的な動作にも支障が生じるようになり、仕事や家事にも影響が出かねません。
また、肥満や膝や腰など痛みといったリスクも生じます。
-2.肥満
運動不足だと消費カロリーが少なくなるため、肥満に陥りやすくなります。
食事などから摂取したカロリーが消費カロリーを上回る状態が続くと、体脂肪が蓄積され
肥満につながります。運動不足では消費カロリーが少なくなりがちなため、たとえ摂取カ
ロリーがあまり多くなくとも肥満になりやすい状態にあるといえるでしょう。
また運動不足で筋力が低下すると、基礎代謝が低下してカロリーが蓄積されやすくな
り、肥満のリスクが増大します。肥満は内臓の周りに脂肪がつく内臓脂肪型肥満と皮下組
織に脂肪がつく皮下脂肪型肥満に分けられ、特に内臓脂肪型肥満は生活習慣病の発症リス
クを高めることが分かっています。
この他にも、筋力の低下と肥満が結びつくことで、足腰の関節や軟骨などに負担を掛
け、痛みの原因となる場合もあります。
-3.動脈硬化性疾患
運動不足で内臓脂肪の蓄積した状態を放置していると、動脈硬化のリスクが高まりま
す。動脈硬化の要因には高血圧、糖尿病、脂質異常症などがありますが、内臓脂肪型肥満
はこれらを引き起こしやすくすると考えられているのです。内臓脂肪による健康への悪影
響を予防するための概念が「メタボリックシンドローム」です。
そのため、より深刻な病気になってしまう前に、内臓脂肪の蓄積やメタボリックシン
ドロームを改善することが重要だと考えられるのです。肥満はもちろん糖尿病や高血圧、
脂質異常症も運動によって改善が可能です。こうした状態にある方は運動習慣をつけるこ
とが重要だといえるでしょう。
-4.膝や腰などの痛み
運動不足は膝や腰などの痛みにもつながります。痛みの原因は筋力の低下や、関節の可
動域が狭くなること、筋肉が緊張してこわばることなどです。膝を支える筋肉が衰える
と、体重をうまく支えられなくなって膝関節の内側に負担が集中してしまいます。これに
より軟骨がすり減って、膝に痛みや炎症が生じます。
また背骨を支える筋肉が衰えると背骨や腰椎への負担が増え、筋肉が凝り固まって血
流が滞ることで腰痛が発生しやすくなります。運動不足によって体重が増えてしまった場
合には、膝や腰にさらなる負担がかかることになります。
-5.便秘
運動不足は便秘の原因の一つです。
運動不足によって起こる便秘は「弛緩性便秘」という種類で、大腸のぜん動運動が低下す
ることが原因です。
また運動自体に腸全体に刺激を与えて動きを活性化するはたらきがあるため、運動不足
だと便秘になりやすい状態が重なってしまうことになります。便秘の原因は運動不足だけ
ではありませんが、運動と便通は密接に関わり合っているため、運動の機会の少ない方は
注意が必要です。
-6.骨粗しょう症
運動不足は骨粗しょう症の原因になります。骨粗しょう症は骨の代謝バランスが崩れ
ることで、骨がもろくなって骨折しやすくなった状態を指します。運動によって骨に負荷
をかけない状況が続いていると、骨の材料となるカルシウムの利用効率が悪くなり、骨粗
しょう症に陥りやすくなります。運動不足が続くことで丈夫な骨がつくられなくなり、骨
粗しょう症になる危険性が高まるのですね。
なお、骨粗しょう症はカルシウムやマグネシウムなどのミネラル不足やビタミンバラン
スの偏り、高齢女性の閉経に伴う女性ホルモン減少などによっても起こります。
-7.がん
運動不足だと、日本人の死因の第1位でもあるがんのリスクも高まります。
国立がん研究センターの研究では、性別を問わず身体活動量が多い人ほどがんになるリス
クが低くなることが示されました。
部位別で見ると、身体活動量が多い男性は少ない男性よりも最大で結腸がんが 0.57
倍、肝がんが 0.62 倍、膵がんが 0.55 倍まで、女性でも胃がんが 0.63 倍までリスクが下
がっています。
つまり、運動不足の人はしっかり運動している人に比べると、がんのリスクが最大で 2 倍
近く高いということになります。
-8.抑うつ・うつ病
運動不足は気分が落ち込んだり憂うつになったりする抑うつ状態や、うつ病の発症に
関係しているケースもあるといわれています。
国際的な大規模研究「HUNT研究」の一環として行われた運動とうつ病に関する研究で
は、普段全く運動をしない人は、週に 1 ~ 2 時間運動する人よりもうつ病の発症のリスク
が 44 %も高いことが示されています。
また同研究では、毎週 1 時間の運動を続けることで、うつ病の発症を 12 %抑制できる
と結論づけています。加えて運動療法がうつ病の治療にも有効であることも分かってお
り、運動にうつ病を原因とした体力の低下を回復させ、生活リズムを整える効果もあるこ
とから、回復プログラムの一環として行われることもあります。
運動不足がうつ病や抑うつ状態に直結するとは限りませんが、関連性があると考えら
れます。
少し長くなりましたが、現在人の運動不足の原因とそれによる悪影響についてまとめてみました。
★次号では、おすすめの運動不足解消法と注意点について触れたいと思います。