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中高年の女性に多い手指の病気に、“エクオール”のサプリは本当に効くの?


 

  仕事、家事、趣味…。手や指は普段あまり意識することなく、日常的に酷使されています。40〜60 歳代を中心とした女性に多いのが、手や指が「痛む」「腫れる」「しびれる」などの症状です。当院にもそのような手指の不調を訴え、多くの患者さんが受診されています。ペットボトルのふたが開けられない、雑巾がしぼれないなど日常生活に不便さを感じて来られる方も少なくありません。

 手指は、骨や筋肉、腱、腱鞘(腱の通り道)、神経、血管などが複雑に入り組んだ構造になっており、人間の体の中で最も綿密で鋭敏な感覚を持つとされています。手指の病気はさまざまですが、頻度が高いのは腱や腱鞘に炎症が起こり、痛みが生じる「腱鞘炎(ばね指、ドゥケルバン病)」、関節内の軟骨がすり減り、痛みや腫れが生じる「変形性指関節症(ヘバーデン結節、ブシャール結節、母指CM関節症)」、人差し指から中指を中心に痛みやしびれが出る「手根管症候群」、手指のほか全身の関節に慢性的な炎症が起こる「関節リウマチ」などが代表的なものです。

 手指の病気は 40 歳以上の女性に多いことが知られています。これまでは加齢や手指の使い過ぎが主な要因と考えられてきましたが、近年の研究で女性ホルモンの減少が関わっていることが明らかになってきました。


 女性のからだは、40〜50 歳ごろを境に女性ホルモンの一つ、エストロゲンの分泌量が急激に減少することが分かっています。冷えや肩こり、不眠、発汗、のぼせ、ほてりなど、いわゆる「女性の更年期障害」というのは、閉経を迎える前にこのエストロゲンが激減することで起こる症状で、手指の不調を起こしやすくなるのも、更年期の症状の一種であると考えられています。

 前置きがだいぶ長くなりましたが、ここからが本題です。


「テレビや新聞、雑誌で医師や大学教授が紹介していたサプリは、手指の不調や病気に本当に効くのですか?」「口コミサイトで人気の高い手指の健康を保つサプリは、効果も高いのですか?」


 これは私が外来診療で患者さんから相談を受けたことがある質問の一部です。質問の中に出てくるサプリは、女性ホルモンのエストロゲンに似た働きをするとされる成分「エクオール」を配合したものです。エストロゲンの減少に起因する手指の痛みやしびれなどの不調のほか、さまざまな更年期症状の改善や予防の効果を謳い、誰もが知っているような大手の製薬会社や食品会社をはじめ、たくさんのメーカーからエクオールを配合したサプリが販売され、近年大きな注目を集めています。皆さんの中にもすでに愛用されている方がいらっしゃるかもしれません。

 まず、エクオールという成分について、科学的根拠(エビデンス)が明確な情報をここにまとめてみます。


 エクオールは大豆イソフラボンの一種であるダイゼインが腸内で代謝される時に産生される物質です。エストロゲンとよく似た働きをするという特徴があるため、エストロゲンが減少することで生じるさまざまな症状の緩和に効果が期待され、さまざまな研究が進められています。


 人の腸内には約 1 千種類の細菌が存在し、ビフィズス菌や乳酸産生菌などの善玉菌とウェルシュ菌や大腸菌などの悪玉菌に分類されます。大豆が食事として摂取されると、ダイゼインが乳酸菌の仲間のエクオール産生菌の作用によってエクオールに変換します。面白いことに、このエクオール産生菌が腸内に存在していても、エクオールを作れる人と作れない人がいます。日本人の女性の 2 人に 1 人はエクオールを産生できない体質だと考えられています。腸内細菌によって産生されたエクオールは腸管から吸収され、全身に運ばれます。エクオールの一部は尿中に排せつされるので尿中のエクオールを調べることで、自分がエクオールを作り出せる体質かどうかをチェックできます。尿中のエクオール測定キットは誰でも入手できます。

 このような事実から各メーカーは、特にエクオールを産生できない体質に女性に向け、テレビや新聞、雑誌、インターネットでエクオール配合のサプリの継続的な摂取を勧め、手指の機能改善や、そのほかの更年期症状の予防・改善への有効性を大々的に宣伝していますが、それらのサプリは本当に効果があるのでしょうか?

 あれ? どこかで聞いたことがあるようなお話ですね、、、そうです、グルコサミン、コンドロイチン、(飲む)ヒアルロン酸などのサプリ・健康食品について取り上げたコラムを思い出してみてください。

 「テレビや新聞、雑誌で医師や大学教授が紹介していたサプリは、手指の不調や病気に本当に効くのですか?」「口コミサイトで人気の高い手指の健康を保つサプリは、効果も高いのですか?」。


 先の質問の繰り返しですが、整形外科医の立場から結論を申し上げると、基本的にほとんどのエクオールのサプリは「効果がない」または「まだ効果がはっきりと明らかになっていない」と考えた方がいいでしょう。現時点で、整形外科医としてエクオールのサプリをお勧めすることは絶対にありません。患者さんが「どうしても」というのであれば「あくまで自己責任で」とお伝えするほかないです。それぞれの手指の疾患に対し、明確な科学的根拠のある治療法が揃っていますから、非常に残念な気持ちにならざるを得ません。

 今回も「効果がない」と聞いて驚かれた方も多いと思います。いや「私には効いている」と反論される方もいらっしゃると思います。しかしながら、現時点ではエクオールのサプリが手指の不調や更年期症状の予防・改善に有効だという科学的根拠は示されていません。つまり、専門家による実験や調査などの研究結果から導かれた「裏付け」がないということです。分かりやすくいえば、確実に効き目があると認められていないということです。


 本当にその症状に効くというデータが実証されれば、「医薬品」として承認されるはずです。しかし、エクオール のサプリに、現在のところそういった話はまったく耳にしません。

 ところで、テレビや新聞の体験談やインターネットの口コミはすべて「嘘」なのでしょうか?これは一概に嘘とは言い切れません。グルコサミン、コンドロイチン、(飲む)ヒアルロン酸のコラムでも書きましたが、効くと信じて飲むことで「プラシーボ効果=思い込みによる偽薬効果」により、体調がよくなったと感じた人がいらっしゃったかもしれません。しかし、それはあくまで気持ちの問題であって、医学的に効果があったことを証明することにはなりません。


 また、人は過去の記憶を正確に覚えてはいません。時として、自分に都合のいいことだけを覚えていて、本当の記憶をすり替えてしまうこともあります。例えば、症状の改善とサプリの服用のタイミングは本当に一致していたのでしょうか? サプリ以外にも安静にした、別の薬を使っていた、など重要な事実を忘れていたり、誤って覚えてしまっていたりする可能性もあるでしょう。個人の感想のみで、そのサプリを飲んだから治った、だから効いたと証明するのは非常に難しいことです。もしサプリを飲まなくても症状は改善したかもしれないからです。

 「有名な医師や大学教授のお墨付きがあるけれど、あれは一体、、、」という方もいらっしゃるでしょう。白衣を着た権威とされている人が「手指の痛みはエクオールで解消!」と言っていれば、誰でも信じてしまいますよね。


 これも、その方々は「嘘」を言っているわけではありません。医療従事者とはいえ全員が同じ考えを持っているわけではないですし、また、各メーカーにとって都合のいい情報だけが表に出てきて、都合の悪い情報は隠されているような編集がなされていることがほとんどで、登場する各先生が番組や紙面で語っていることは「成分についての科学的根拠」であったり「効果が期待できる」「有効性が見込める」というように語尾を濁したりあいまいな表現にしたりし、嘘や間違ったことを伝えないよう細心の注意が払われているように思います。


 ただ、個人的な感想ですが、医療に関する情報としては大きく偏りが生じているように見えます。各メーカーとも法律の隙間をぬって誇大広告を続けているかのようで、あまりいい気持ちはしません。

 2019 年 11 月 23 日の毎日新聞の記事に、特定の栄養素を凝縮して錠剤やカプセルにした市販のサプリメント 100 製品を国民生活センターが商品テストしたところ、4 割以上が医薬品で定められた規定時間内に水に溶けなかった、とあります。飲んでも体内で吸収されていない恐れがあり、同センターは「必ずしも医薬品と同様の品質が保たれているとは限らない」と注意喚起しました。サプリや健康食品やは形を見れば薬と変わりませんが、影響摂取や健康増進のためのもので、病気の治療が目的である薬の代わりになるわけではありません。サプリや健康食品だけで病気が治ったということを証明した研究結果はありません。

 

 もちろん、すべてのサプリが「悪い」わけではありませんが、サプリさえ飲んでいれば健康になると安易に考える大きな間違いです。メーカーの宣伝文句に踊らされ、医療や生活習慣を見直す努力を後回しにしないでほしいと心から願っています。

 最後に、手指の痛み、不調を放置していると、症状が悪化し日常の動作が制限されるなど、快適な生活を阻む原因にもなりかねません。変形性指関節症であれば、40 歳代後半〜50 歳代前半で痛みや腫れが生じ、その後に適切な治療を受けられないでいると、60 歳代になり変形が起こるケースが多いです。一度変形してしまった関節は元には戻りません。

手指の病気に対する治療法には、主に ① 安静・固定(手指の不使用、テーピング固定等) ② 薬物療法(鎮痛剤、ステロイド注射、ビタミン剤等) ③ 手術(切開、関節固定、人工関節等)などがあります。多くの病気と同様に、発症から適切な治療を開始するまでの期間が短いほど治療効果が高くなり、治療中・後の生活の質が良好に保たれることが分かっています。痛みがなくても、何か違和感を感じた時にはすぐに整形外科を受診し、自分の手指の状態を把握しておくことも、健康な手指を維持し、一生快適に手指の機能を使い続けるコツといえます。


 これまで手指の使いすぎや年齢のせいだとあきらめて、痛みを我慢されていた人も多いかと思います。まずはかかりつけ整形外科で、手指の状態や疾患の有無を調べ、セルフケアの方法や治療について専門医と相談してみてください。






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