今回は関節リウマチのお話です。
以前も取り上げましたが、昨年7年ぶりに関節リウマチの診療ガイドラインが改訂されるなど、近年の関節リウマチ治療の進歩は目を見張るものがあります。あらためて症状の特徴や最新の治療薬などについて、今回と次回の2回にわたって連載します。
関節が曲がりにくい、関節が腫れている、関節が熱を持っている。重いものを持つと手首がズキンと痛む、階段の上り下りで膝がズキンと痛む、お風呂に入る時に全身が痛む。起きて10分ぐらいは指がこわばって動かない、手がギシギシする、足首がカチカチでロボットになったみたい、首や肩がギリギリと鳴っているよう、全身がだるくて動きづらい、だるくて力が入らない、体が鉛のように重い。ボタンを外しにくい、箸が上手に使えない、靴紐を結びにくい、ペットボトルなどのキャップを開けにくい、ドアノブを回しにくい、フライパンや鍋が使えない、歩くと足指の付け根が痛い…。
このような症状が現れたら、それは関節リウマチのサインかもしれません。
関節リウマチは、関節に起きた炎症によって腫れや痛みが出る病気です。炎症が続くと骨や軟骨が破壊されて、関節の機能低下や変形が進行し、日常生活に支障をきたします。現在、日本には70万~100万人の患者さんがいるとされ、まれな病気ではありません。男性よりも女性の方が約4倍も多く、発症年齢のピークは30~50代ですが、60歳以降に発症する方も少なくありません。遺伝病ではないので、関節リウマチにかかった家族はいないから自分は大丈夫、との思い込みは禁物です。
全身の関節に症状が出る可能性がありますが、特におかされやすい部位があります。それが手足の指の関節で、ほぼ全員に病変が起こるといってもよいところです。
関節リウマチは段階を追って長い経過をたどる病気ですが、進行具合は個人によってかなり差があります。病気になって長期間になるにもかかわらず、関節の変形がほとんどみられないケースがある一方、どんな治療をしても症状が改善せず、関節の変形が年単位で進むケースもあります。多くの場合、ゆっくりと始まり、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら進んでいきます。
関節リウマチがなぜ起こるのか、その原因については不明な点が多いのですが、いくつか分かっていることもあります。関節リウマチは現在、遺伝的な要因と後発的な環境的要因が複雑に関係し合い、異常な自己免疫反応を呼び起こして発病すると考えられています。
免疫は本来は外部から細菌などの異物が入ってきてもそれを排除して、自分の体を守るように働く仕組みです。しかし、間違って自分の体を形づくっている細胞やタンパク質を異物とみなして、反応する抗体ができてしまうことがあります。この自己抗体が、自分で自分の体の成分を攻撃したり排除したりするようになり、さまざまな病気が起こるようになります。これが自己免疫疾患です。自己免疫疾患は関節リウマチ以外にもいろいろあり、代表的なものは関節リウマチと同じ膠原病グループの病気です。全身性エリテマトーデス、強皮症、シェーグレン症候群、ベーチェット病などがあります。
関節リウマチの発症と関連の深い重要なリスク因子は「喫煙」です。タバコを吸う人は、吸わない人よりも2倍の発症リスクがあるとされ、喫煙期間が長いほどリスクは高くなると報告されています。さらに注目されているのが歯周病のリスクです。歯周病菌の一種である「Pg菌」が持つ酵素によって関節リウマチに関連する自己抗体が増加することが明らかになっています。そのほか、精神的ストレスや過労なども免疫系の働きに影響を及ぼし、発病のリスクになることが考えられます。
診断は、まず問診を行い、日常生活の状況や関節の痛みなどについて詳しく聞き取ります。次に全身の関節を診て、痛みのある関節と腫れている関節がどのくらいあるかをチェックします。続いて各種の検査を行います。主に血液検査と関節のエックス線撮影です。血液検査では赤血球沈降速度(血沈)やC反応性タンパク(CRP)といった炎症を示す値が高くなっていないか、そして関節リウマチで値の上がることが多いリウマトイド因子(RF)などを測定します。関節のエックス線撮影では関節の隙間が狭くなっている所見や、骨のびらん、さらには関節の変形がないかを診ます。必要に応じて、超音波検査やMRI検査を行うこともあります。こうした診察所見や検査所見から関節リウマチの診断基準に照らし合わせて総合的に診断していきます。
典型例の関節リウマチの診断は容易ですが、中には診断が難しい症例もあります。血液検査で反応がみられない関節リウマチも約2割存在することが分かっていますし、何も病気がなくても関節リウマチの反応が出ることも多々あります。また、関節リウマチと同じような関節の痛みが出る病気はたくさんあるので、それらの病気の可能性を否定するためにも前述のさまざまな検査が必要となります。関節リウマチの診断がなされたらすぐに治療を開始します。
関節リウマチは、かつては炎症を上手にコントロールする治療法がなかったため、一生治らずにいずれ日常生活が制限されてしまう病気だと思われていました。仕事や妊娠・出産をあきらめなければならないことも多くありました。いわゆる難病であったわけですが、近年、特にこの20年間ほどで関節破壊の進行を抑える薬が次々と使えるようになったことと、早期診断の精度が向上したことによって関節リウマチ治療は格段の進歩を遂げました。患者さんがリウマチを原因に「仕方ない」「無理だから」と思ったりあきらめたりするシーンは以前と比べると格段に減っています。逆に「できること」はどんどん増えています。
昨年、日本リウマチ学会による「関節リウマチ診療ガイドライン」が7年ぶりに改訂されました。「患者さんと医師が話し合い、共同で治療を決める」という考え方に沿い、治療の決定に必要な根拠(治療原則など)が解説されています。
ガイドラインでは、関節リウマチ治療の重要な目標を「適切な治療によって症状落ち着いて病状が進まない『臨床的寛解』や、寛解までには至らなくても症状が落ち着いている『低疾患活動性』を目指す」としています。診断技術と治療法の進歩によって、病気自体を追い出すことはできなくても、症状の悪化を抑えるだけでなく、より良い暮らしを取り戻すことが可能になっているということです。また、ガイドラインでは最新の治療薬の組み合わせと投与のタイミングについて治療の進め方(アルゴリズム)を提示しています。薬物治療以外の外科手術やリハビリテーションなどの治療でもアルゴリズムを作成し、薬物治療の効果と併せ、患者さんの生活の質を高める方策をまとめています。
最新の標準治療や治療法・治療薬の推奨度に関する情報を診療の現場に行き渡りやすくすることが、リウマチ診療の質を保ち、(診察が受けにくい地域などでの)治療格差を解消するために重要で、ガイドラインがその役割を担います。
ただし、治療の効果を最大限に得るには、早期発見・早期治療が何よりも重要です。
最近の研究で病気の全経過20年ほどでおかされる関節の40%は、症状が出るようになって最初の4年間のうちに、破壊が進んでしまうことが明らかになっています。そのため、この初期の4年間は関節リウマチ治療にとって特に大切で、「治療の機会が開かれている窓」とも呼ばれています。
しかし、関節リウマチの初期は、はっきりした症状がない場合も多く、倦怠感や微熱、体重の減少、貧血といったあらわれ方をすることもあり、リウマチとは気づかない人もいます。関節の痛みや腫れ、こわばりといった、関節リウマチの疑いが強い症状があっても、最初は近くの整形外科や一般内科を受診する人もいるかもしれません。しかし関節リウマチは、ベテランの医師でも診断が難しい面があります。関節リウマチには、「この検査で陽性なら間違いない」といえる診断の決め手となるものがないからです。ですから、関節リウマチが疑われる場合は、初めから「リウマチ科」を標榜する整形外科を受診することをお勧めします。経験豊富なリウマチ医であれば、さまざまなあらわれ方をする関節リウマチのサインを見逃さず的確な判断ができますし、新しい診療ガイドラインに沿った最新の治療法や関節リウマチ研究の動向にも通じているからです。
次回は、関節リウマチの治療についてお話しする予定です。
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